関数を覚えなくても数式は作れる
「SUMIF だっけ、SUMIFS だっけ」。数式を組むたびに検索し直して、引数の順番でつまずく。表計算のいちばん面倒なところは、たいていこの"関数を思い出す"作業だったりします。
ここは、丸ごとAIに預けられます。関数名も引数も覚えていなくていい。やりたいことを日本語で書いて渡せば、ChatGPTのような生成AIが、そのまま貼れる数式にして返します。たとえば「A列の日付が今月のぶんだけ、B列の金額を合計したい」。この一文を渡すだけで、式が返ってきます。
覚えるのをやめる代わりに、身につけたい習慣がひとつだけあります。返ってきた式を鵜呑みにせず、数行で"検算"すること。難しくはありません。任せられる型は、大きく3つあります。
①やりたいことを書けば、数式が返ってくる
いちばん出番が多いのが、数式づくりです。頼み方はこれだけ。
A列に日付、B列に金額が入っています。
今月ぶんのB列だけを合計するExcelの数式を教えて。
例の「A列に日付、B列に金額」は、自分のシートの実際の列に置き換えてください。コツは、自分のシートの構造を具体的に書くこと。AIはあなたの画面を見ていないので、「どの列に何が入っているか」を伝えないと、的外れな式が返ります。逆に、列と条件さえ渡せば精度はぐっと上がる。この"具体的に渡す"感覚は数式に限らず効くので、頼みごと全般のコツはAIに"伝わる"指示の書き方もあわせてどうぞ。
返ってくるのは、たとえばこんな式です(イメージ)。
=SUMIFS(B:B, A:A, ">="&EOMONTH(TODAY(),-1)+1, A:A, "<="&EOMONTH(TODAY(),0))
見慣れない関数でも、慌てなくて大丈夫です。「この式をどのセルに貼ればいい?」「一行ずつ何をしているか説明して」と続けて聞けば、貼る場所も中身の意味も教えてもらえます。条件つきの合計、重複の削除、別の表からの値の呼び出し。定番の処理なら、たいてい式にしてもらえます。
②表を丸ごと貼って、集計や傾向を出してもらう
数式を作らせるだけでなく、表そのものを渡して分析させることもできます。売上表をコピーして貼り、こう頼む。
次の売上表を、月別・商品別に集計して表にまとめて。
気づく傾向があれば、3つだけ挙げて。
(ここに表を貼りつける)
セルの範囲を選んでコピーし、そのまま貼れば、AIは行と列を読み取って集計してくれます。Excelから範囲をコピーすれば列のまとまりは保たれるので、貼って崩れる心配はいりません。ファイルを添付できるツールなら、Excelやスプレッドシートのファイルごと渡す手もあります。おもしろいのはその先で、「先月と比べて伸びた商品は?」「客単価が下がっている月は?」と、集計のあとに問いを重ねられる。ここが、電卓や手作業との大きな違いです。
ただし、貼る中身が社外の目に触れて困るものなら、そのままは渡さない。ここは後半の注意点でまとめます。
③グラフやピボットは「どう見せたい?」から相談する
「この数字、どう見せれば伝わる?」も、AIに相談できます。
月別の売上データがあります。
社内会議で"伸びているか"をひと目で見せたいとき、
どんなグラフが向いていますか。理由も添えて。
棒か折れ線か円か、で毎回迷うところに、目的に合った案が理由つきで返ってきます。「ピボットテーブルで商品別の合計を出す手順を、クリックの順番で教えて」といった、操作そのものの道案内も頼める。作り方を思い出せないとき、メニューを探しまわるより早いことが多いです。
ChatGPTで式を作ってExcelに貼る
ここまでの頼み方は、ChatGPTのような汎用のAIチャットがあればすぐ試せます。無料のChatGPTでも試せます。式を作らせて、Excelのセルに貼る。この形なら、手元のExcelがどのバージョンでも、Googleスプレッドシートでも同じように使えます。特別な準備がいらないのが強みです。
Microsoft 365を契約しているなら、Excelに組み込まれた Copilot に、シートを開いたまま直接頼む手もあります。データを選んで「これを月別に集計して」とお願いするイメージです。使えるかどうかや細かい機能はプランで変わるので、そこは公式で確かめてください。
どちらを選んでも、やることは同じです。やりたいことを言葉にして渡し、返ってきたものを確かめる。違うのは入り口だけです。
「なぜその式か」「どこが原因か」まで聞く
一歩進んだ使い方は、式をもらって終わりにしないことです。「なぜこの関数を使ったの?」と一言足すだけで、AIは考え方まで説明します。丸暗記ではなく"なぜ"で腑に落ちると、次に似た場面が来たとき、自分で応用がきくようになる。
エラーが出たときも同じです。セルに #REF! や #VALUE! と表示されて固まったら、そのエラー表示と使っている式を、まるごと貼って「なぜエラーになる?」と聞く。原因の見当と直し方がわかります。エラーコードの意味を自分で調べるより、実物を見せたほうが手っ取り早い。
返ってきた式は、数行で"検算"してから使う
便利さの裏で、外せない注意が二つあります。
ひとつは、AIは計算そのものを間違えることがある、という点です。もっともらしい式を返しておきながら、条件を一つ取りこぼしていたり、いまは使われない古い関数を持ち出したりする。たとえば「今月ぶん」のつもりが、先月まで含む式が返ってくることもあります。この"それっぽく間違える"クセはハルシネーションと呼ばれ、生成AIの弱点として知られています。だから、返ってきた式をいきなり全体に適用しない。答えの分かっている数行で、手で足した合計と一致するかだけ先に確かめる。そこで合っていれば、安心して残りに広げられます。数字の最終責任は、AIではなく自分にあります。
もうひとつは、表の中身です。顧客名や未公開の売上、個人情報を含む表を、そのまま貼らない。名前は「A社」、金額は「◯◯」と伏せるか、ダミーの数字に置き換えてから渡します。会社のデータを扱うなら、どこまで入れていいかは社内のルールもあわせて確認を。この線引きはAIに個人情報を入れて大丈夫?にまとめています。
まず開いているシートで試す
数式を全部そらんじている必要は、もうありません。関数名を思い出せなくても、やりたいことを一文にできれば、仕事は前に進みます。
とはいえ、覚えなくてよくなった分、確かめる手間まで消えるわけではありません。返ってきた式を数行で見比べる、このひと手間だけは自分の側に残ります。
最初の一歩は、いま開いているそのシートで始められます。「◯◯したいんだけど、Excelの数式を教えて」と、用件を一文にしてAIに送る。返ってきた式を数行で確かめる。この二つがひと通りできれば、関数を思い出せずに手が止まることは、ぐっと減ります。
