AI翻訳の強みは「トーン指定」
生成AIに英語の翻訳を頼む一番の強みは、トーンを指定できることです。「取引先向けに、丁寧に」「同僚にカジュアルに」「短く、要点だけ」。こう条件を足すと、その温度に合わせた英文が返ってきます。訳す速さより、この指定ができることのほうが大きい。単語を機械的に置き換えるだけだった従来の翻訳ツールと、ここが大きく違います。
だから、英語が得意でなくても使いどころは広い。日本語をビジネス英語に直すのはもちろん、自分が書いた英文を添削してもらったり、辞書では判断しにくいニュアンスを相談したりもできます。用意するのは、ChatGPTのようなAIチャットひとつ。無料の範囲でひととおり試せて、メール1通ならほんの数分です。AIチャット自体がはじめてなら、先にChatGPTの始め方に目を通しておくとスムーズです。
ひとつだけ先に言っておくと、AIの訳は完璧ではありません。意味がずれることも、不自然な言い回しになることもある。だから、訳を鵜呑みにしないための確かめ方も、後半でふれます。
日本語を相手に合わせた英語にする
いちばんよく使うのが、日本語の文面を英語にする頼み方です。ポイントは、訳してほしい文といっしょに「誰に・どんなトーンで」を一言そえること。
次の日本語を、取引先向けの丁寧なビジネス英語メールにして。
「先日の見積もりの件、社内で検討した結果、金額を再調整いただけないかと考えています。」
返ってくるのは、たとえばこんな英文です(イメージ)。
Dear Mr. Tanaka,
Thank you for the quotation you sent the other day. After reviewing it
internally, we would like to ask whether it might be possible to adjust
the pricing. We would greatly appreciate your consideration.
Best regards,
ここで一つ注意。宛名の「Dear Mr. Tanaka」は、AIが仮で補ったものです。こちらは名前を渡していないのに、それらしく入れてくる。AIは固有名詞をこうして"埋めて"しまうことがあるので、宛名や結びの名前は、必ず実際の相手に置き換えてください。
トーンを変えたければ、「もっとカジュアルに」「一文でいい」「フォーマル度を上げて」と言い足すだけ。同じ日本語でも、相手が上司なのか、初めて連絡する海外の担当者なのかで、ふさわしい英語は変わります。その調整をお願いできるのが、翻訳専用ツールにはない使い勝手です。
うまく訳してもらうコツは、「誰に・どんなトーンで・どのくらいの長さで」を具体的に渡すこと。渡す情報が細かいほど、返ってくる英語も的確になります。この頼み方についてはAIに“伝わる”指示の書き方にまとめました。英語にかぎらず、AIへの頼みごと全般に効く考え方です。
自分が書いた英語を直してもらう
自分なりに書いた英文に、いまひとつ自信が持てないとき。そのまま貼りつけて、添削を頼めます。
次の英文の文法を直して、より自然な言い回しにして。
変えた箇所と、なぜ変えたかも教えて。
I want to know the meeting time. Please tell me as soon as possible.
「なぜ変えたか」まで聞くのがコツです。直った英文だけ受け取ると、次も同じ間違いをくり返す。理由がわかると、それがそのまま自分の勉強になります。上の文なら、「I want to know は直接的すぎる」「Please tell me as soon as possible は相手を急かして聞こえる」といった指摘とともに、もう少しやわらかい言い方に整えて返ってきます。
たとえば、こんな形です(イメージ)。
Could you let me know what time the meeting will start?
I'd appreciate a reply when you have a moment.
急かす響きが消えて、ていねいな依頼になっているのがわかります。文法の正誤だけでなく、「感じのよさ」まで直せるのが、辞書や文法チェッカーにはない部分です。
辞書に載っていない"温度感"を相談する
辞書を引いても、「どちらがより丁寧か」「この言い方はきつく聞こえないか」までは、なかなかわかりません。そこもAIに相談できます。
"Could you" と "Would you" は、依頼するときどう使い分ける?
このメール、相手にきつく聞こえたりしないか見てほしい。(英文を貼る)
言葉の意味そのものより、「相手にどう届くか」を知りたいときに向いています。二つの表現の違い、丁寧さの度合い、フォーマルすぎないか。辞書の語義ではなく、実際に使われる場面ごとの感覚を説明してもらえるので、「これで送って大丈夫かな」という最後の迷いをつぶすのに使えます。
汎用AIと専用ツールの使い分け
翻訳に使えるAIは、大きく二種類あります。
ChatGPTやGeminiのような汎用のAIチャットは、ここまで見てきた「トーンの指定」「なぜ直したかの説明」「対話でこまかく詰める」が得意です。一方、DeepLのような翻訳専用のツールは、長い文章をまとめて手早く訳したいときに定評があります。
ざっくり全体の意味をつかみたいときは専用ツール、送る文面をていねいに整えたいときは汎用AI。目的で使い分けるのが現実的です。同じ文を両方に貼って訳を見比べ、自然なほうを選ぶ、という手もあります。
(それぞれの機能や、無料で使える範囲は変わりやすいので、最新は各サービスの公式で確認してください。)
日本語に訳し返して確かめる
英語が得意でないと、返ってきた英文が「合っているのか」を自分では判断しづらい。そんなときに効くのが、逆方向にもう一度訳す方法です。
AIが作った英文を、今度は「この英語を、意味が変わらないように日本語にして」と頼んで訳し返す。出てきた日本語が、自分の言いたかったことと合っているかを見る。ずれていたら、元の日本語を直して、もう一度英語にしてもらえばいい。
次の英語を、意味が変わらないように日本語に訳して。
(AIが作った英文を貼る)
英語のまま良し悪しを判断するより、日本語に戻して「意図とのずれ」を探すほうが、はるかに確実です。ひと手間かかりますが、大事なメールや資料ほど、この確認をはさむ価値があります。
送る前に確かめること
便利さの裏で、任せきりにできない部分があります。三つだけ押さえてください。
ひとつ、訳のずれです。不自然になったり、意味がずれたりすることがあります。とくに社名・人名などの固有名詞、契約・金額・日付、専門用語は、しれっと取り違えることがあります。もっともらしい顔で誤訳するこの弱点は、生成AI全般に共通するものでハルシネーションと呼ばれます。契約書やお金がからむ文書は、訳を鵜呑みにせず、重要な箇所は原文と突き合わせてください。
ふたつ、機密情報です。社外秘や個人情報を含む文面は、そのまま貼らないこと。翻訳のために資料やメールを丸ごと貼るときは要注意です。取引先の名前、契約金額、未公開の情報は、「A社」「◯◯」と伏せるか置き換えてから渡す。多くのサービスには入力を学習に使わせない設定があるので、迷ったらオンにしておくとよいです。会社の文書を扱うなら、社内のルールもあわせて確認を。どこまで入れていいかの線引きはAIに個人情報を入れて大丈夫?にまとめています。
みっつ、トーンの最終判断です。AIは無難に丁寧な英語を返しがちですが、いつもやりとりしている相手には、かえって他人行儀に映ることもあります。逆に、初めての相手にカジュアルすぎるのも考えもの。最後の匙加減は、相手をいちばん知っている自分が決めます。
完璧な英語より、"伝わって失礼がない"で十分
仕事で使う英語なら、ネイティブ級の完璧さまでは要らない場面がほとんどです。求められているのは、用件が正確に伝わって、相手に失礼がないこと。その水準に届かせるところまでは、AIが十分に手伝えます。
苦手意識があっても、やることはシンプルです。まずは、この記事のいちばん最初のプロンプト(日本語→英語)をコピーして、自分の文面に差し替えるところから。返ってきた英語を、日本語に訳し返して意図とのずれだけ見る。この往復さえできれば、英語のメールや資料も、自分ひとりでひととおり形にできます。
